自家中毒

たわごと置場。感想及び記録

ヒースロー空港で怒られた思い出

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空港にて

2週間の英国旅行も終わりをむかえようとしていた。
心地よい疲れと寂しさを胸に帰国便の座席に身を沈めながら、安堵の方が大きかったかもしれない。
離陸時刻も近づいた頃、暢気に雑誌をめくっていた私は、名指しで機内呼び出しを受けた。
おやおや書類不備でもあったかなと立ち上がり、CAさんへと名乗りでる。
CAさんは笑顔で、つい先ほど通ってきたばかりの搭乗口の方へと案内してくれた。
こんなこと初めてだわ~何かな~とちょっとワクワクすらしていた。
が、そんな浮ついた気持ちは搭乗口に接続するトンネルに出たところできれいさっぱり消え去った。
そこにいたのは自動小銃を手にした屈強なお兄さん二人と、タイトな制服を着たお怒りモードのマダム。地面に無造作に転がされている預けたはずのマイトランク。
あ、これ書類不備じゃねえな。
否が応でも察する。
同行してくれたCAさんに助けを求めて視線を送るも、おねーさんは深刻そうに立っているだけ。ジーザス。
マダムは一枚のレントゲン写真を突き付けてくる。トランクの中身を写し出したものだ。
白黒の写真には、ばっちりくっきっり銃の形をしたものが写りこんでいた。
そんなことある?ってくらい、コントかよってくらい、あからさまに銃だった。
うわ、これはアカン。アウトなやつ。
一気に汗が噴き出た。誰がどう見ても日本への銃の不法持ち込みだ。
やり口が堂々としすぎてるけど、しでかさない人間がゼロとは言えないもんな。
マダムは問う。「これはなに!?」
(以下英語での会話をとんちきヒアリングで紐解いたニュアンスでお伝えします)
下手したら乗機拒否、罰金、勾留……一瞬で駆け巡る嫌な未来。
や、ちが、それは、ちがくて、とパニックになりつつも瞬時にぎゅるると脳は回転し一つの単語を導き出す。
「ディスイズ、イミテーション!!」
おもちゃを意味する「TOY」と一瞬迷ったけど、こっちの方が大人びている気がする。
本当のことだ。英国で買った正真正銘のレプリカ銃だもん。なんか17~19世紀くらいに使われていそうな銃身が長いやつだもん。弾の射出はできないやつだもん。
マダムは疑わしげに迫る。荷物を開けてみろと命じる。
イミテーション、イミテーションと繰り返し、へこへこアセアセしながら鍵を回し、トランクを開いた。
中には紅茶とか変なぬいぐるみとか買い集めたおみやげがわらわらと詰め込まれている。服も雑多に押し込まれている。
マダムもお兄さんもCAさんもみんな見守ってる。なんという羞恥プレイ。
中から該当の品を掘り起こし、どうにか取り出す。
ブツは箱に納められているのだが、箱の外側はビニールテープでぎっちぎちに巻かれ封じられていた。
うん、知ってた。家に帰るまで開けられないようにってお店のおにーさんがぐっるぐるに梱包するのを見てた。イミテーションとはいえ見ため的には銃だからね、配慮大事だね。
泣きそうになりながらビニールをはがそうとするも全然取れやしない。
焦るほど手がおぼつかなくなり、とうとう業を煮やしたゴツイ兄さんが手伝ってくれる。
ビリッビリッとパワーでもって乱雑に開けていく。あああ、もそっと丁重に扱って……
ついに開け放たれた箱から出てきたのはまごうことなき銃。
ちょっとざわつくマダムと銃を持った兄さんたち。
ひたすらイミテーション、イミテーション繰り返す自分。
ほら、引鉄ひいてみたら分かるから~とか思って構えようとしたら兄さんに取りあげられた。
そりゃそうだ。本物だったらどうすんだって話ですよね!(テヘ)
兄さんがチェックしてレプリカと確認がとれると、ようやく返してもらえた。
没収されなくてとりあえず一安心。
なんとなく流れる解決ムードにようやく平静さが復活していく。
そそくさとブツしまい、荷物を押し込み、なかなか閉じ切らないトランクの蓋を渾身の力で押し付けた。
気を取り直して、なるべく神妙な顔と稚拙な英語で謝罪。
や、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったけどそれを言葉にする術がなかったのです。
もう開放してもらえるかなと、愛想笑いを浮かべながらいそいそと機内に戻ろうとしたところ、目の前に伸びてくる腕。肩がびくっと震え、あっさり壁際に追い詰められてしまう。
人生初の壁ドンは、英国マダムからでした。
しかもガチ詰め。目がマジのマジ。
「あなたねえ、これは絶対にしてはいけないことよ」云々こんこんとお説教。
ええ、全くその通りでございます…
色んな人に迷惑と手間をかけてしまってますからね…
心臓ドキドキ。
これは恋? いいえ。いたたまれなさです。

その後、どうにかこうにか座席に戻り、無事日本へと帰国することができました。
旅行は最後の最後まで気が抜けないと身をもって実感した次第です。


ちなみに、銃はヨークで購入しました。
Bettys Café Tea Roomsでアフタヌーンティーして、ヨーク大聖堂までぶらついてみるか、とストーンゲートを歩いている時にみつけたYork Armouryちゅうお店でつい買ってしまったのです。
(フリントロックピストルというやつらしい)
行程の前半で購入したため、ずっとイミテーション銃とともに英国各地へと旅していたことになりますね。
ヨークはとても良い街だったので、また訪れたいところです。

 

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問題のブツ